2018年11月12日

身代り囚妃の祈り12

身代り囚妃の祈り12

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<あらすじ>
いつのまにか芽生えていたリシドへの思慕を自覚した良樹は、
リシドから向けられる激情の中に、愛情が隠れていることを感じ、
嬉しさを感じてしまう自分に戸惑う。
リシドと良樹は、互いに初めての感情に、手探りながらも向き合うようになっていく。
異世界トリップ小説 第十二巻

A5 表紙フルカラー 2段組 44P 300円

とうとう!やっと!両想いになりました〜。
ラブエッチ?ってこれでいいの…か…?ってなりながらも頑張りました。

両想いにはなりましたが、まだ続いてます。
あとちょっとお付き合いいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。

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身代り囚妃の祈り12 より抜粋

***

 リシドの大きな手の平が、良樹の右頬に包むように触れる。
 その手の温かさに、良樹は目を閉じ息を吐いた。
 寝台の縁に二人で腰掛け、ゆっくりとした口づけを交わし合いながら、リシドは良樹の表情を探った。
 そこに怯えの色はない。
 そっと胸元に手を差し込めば、あえかな吐息がもれた。
 互いに衣を脱がせあう。
 男物の衣に不慣れで、着付けるどころか、脱がせることにすら手間取っていた頃があったことを良樹は思い出した。
 リシドの紐を解く指が、緊張でか、微かに震えている。
 そっとその手を、大きな褐色の手が押さえた。
「以前もよく、震えていたな」
 リシドも思い出していたらしい。
「あなたは、とても怖かったから」
 当時の気持ちを、良樹は素直に伝えた。
 きっとこの男は、そんなことはわかってやっていたのだろうけど。
「怖れられねばならんと思っていたからな」
 互いに、憎み、憎まれることが役割だと思っていた。
「今も、怖いか」
 良樹は少し考える。
 怖いか、
 と言われれば、
 怖い
 そういう出会い方をしたし、そういう夜を過ごしてきた。
 すぐになくなる気持ちではない。
 けれど、
「怖くないように、してください」
 怖くないようになりたい、そう思っている。
 良樹は、自ら顔をよせて、王の首元に齧りついた。
 一瞬だけ息をつめた王が、己の上衣を勢いよく脱ぎ捨てた。
 そのまま良樹を抱きしめて、寝台に倒れ込み、中央に引き上げる。
「リシド様っ」
 獰猛な動きは、肉食獣のように俊敏で強引だ。
「煽るな。せっかく抑えていたのに」
 仰向けに押し倒された良樹の顔の横に手をついて、真上からその黒瞳を見下ろす。
「怖くないようにって、言ったのに……」
 少しだけ不満をのせて、良樹が呟くのを、リシドは笑った。
「これからだな」
 楽しそうに言って、リシドは、良樹の首元に、同じように噛みついた。
「っつ」
 わずかに走った痛みは、それでもリシドが加減していることを教えてくれる。
 そのまま首筋を舐めはじめたリシドは、ちからまかせに腰布を解いてしまった。
「リシド様、せっかくいただいた衣装が……」
 乱暴に扱えば、繊細な刺繍はすぐにいたんでしまう。心配する良樹を、リシドは胸の尖りを舐め上げて黙らせる。
 リシドはこの首元から胸元に香る良樹の匂いが好きだった。
 湯を使ったときの香油や薬湯の残り香に混じって、良樹自身の温度のある甘い匂いが立ち上る。
 その匂いを吸い込むと、リシドの身体は一気に昂った。
 胸の愛撫をうけて、良樹の呼吸も乱れ始める。
 この息づかいも好きなのだ。
 口から吐き出される息と
 上下する胸と
 しっとりと潤いだす肌
 全てが己を酔わせることを、リシドは改めて実感する。
「私が与えた衣で着飾ったお前を、白く剥いていくのも、また送る楽しみの一つだろう」
 寝台に広がった、朱い良樹の衣の上に、白い肌と黒い髪が乱れる様は、確かに倒錯的な官能を刺激する光景だった。
 潤んだ瞳で、良樹は愉しそうなリシドを睨んだ。
 そんな表情一つに、良樹の自分への慣れを感じてリシドは喜びを感じた。
 ふと目についた、金の簪を抜き取る。
 黒髪に、金は思ったとおりに映えてよかったが、今は良樹を傷つけるかもしれないと、寝台の端に放る。
 それを見ていた良樹も、その意図に気付いたのか、もう一つつけていた簪を、自分で引き抜いた。
 そのまま簪を握りしめている右手を、リシドは撫でる。
「今、それで私の胸をさせば、お前は解放されるやもしれんぞ」
 良樹ははっとして自分の右手をみる。
 飛び出している先は、刃物や針ほどではないが、確かに尖っていた。
「お前の悲鳴を何度聞いたか。正直にいえば、私は、お前の憐れな姿に興奮する。これからもそうだろう。私の本質はかわらない」
 リシドの眼差しは真剣だった。
「お前はずっと逃げ出したかったはずだ。今、それで一突きにするならば、お前はここから逃げられる」
 本当に、これで最後の選択を、良樹にゆだねてくれるらしい。
 良樹は泣きそうになった。
 ひどい男だと思っていたけれど、
 やっぱりひどい男だった。
 こんな
 嫌で怖くて仕方ないのに、それでも気になって、そばにいたくてしょうがなくなるまで、自分の心と体を蹂躙しておいて、
今さら選ばせようなんて。
 本当の恐怖に震えていた時には、全ての逃げ道を塞いだくせに、見つけてしまった優しさや愛情に戸惑っている今になって、選ぶ責任を良樹にぶつけてくる。
 自分自身だって、まだ己の気持ちがわからないのに
 曖昧なままにさせてくれない。
「ほんとうに、ひどいひと」
 良樹の右手から力が抜けて、握っていた髪飾りがこぼれ落ちる。
「どうして僕は、あなたみたいな人を、好きになってしまったんだろう……っ」
 憎んだままでいた方が、きっと自分は平穏だった。
 これまでにもっていた価値観や倫理を捨て去らなくては、きっとこれからが生きにくくなる。
 それはすごく大変なことなのに
 それでも
 選ぶというなら、やはり、この男なのだ。
 こんな傲慢さを受け入れろと言ってくるくせに
 リシドを選んだ良樹を見つめる眼には、ありありと喜びと安堵が浮かんでいるから。
 そんな顔を見せられたら、そりゃ自分だって絆されるにきまっている。
 良樹はリシドに向かって両手を伸ばした。
「あなたの方こそ、ちゃんと僕を、捕まえておいてよ」
 逃げない選択は自分の責任だけれど、逃がさない選択はリシドの責任だ。
 歪な二人がともにいる責任は、二人で半分ずつ分かち合いたい。
 そんなことを、目に涙を煌めかせながら言われて、リシドは破顔した。
「お前はやはりおもしろいな」
 リシドは良樹の上半身をすくいあげる様に、固く深く抱きしめる。


「私の選択など、お前を抱いたその夜から、もう一つに縛られているというのに」


***
posted by モリイロ at 22:47| BOOK | 更新情報をチェックする