2018年02月03日

身代り囚妃の祈り10

身代り囚妃の祈り10

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<あらすじ>
テシムの呪い紋について王に隠していたことが
発覚してしまった良樹は、王の命により後宮に軟禁されてしまう。
星の宮からは女官長が去ることになり、
後宮の雰囲気も大きく変わってしまった。
そんな中、ガル茶の反作用から、ひどく体調をくずした
良樹を見舞いにリシドが訪れて・・・。

表紙フルカラー/44P/2段組み 300円

異世界トリップ小説の10巻目です。
新王×少年
後宮/無理矢理/調教/子育て

まだ続いております。完結しなかった。ごめんなさい。
二人の距離も、ちょっとずつですが近づいてきました。(当社比)
憎しみから執着、そして愛情に・・・なる、はず。
相思相愛を目指して頑張って書きますので、
よろしければまたお付き合いくださいませ。

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身代り囚妃の祈り10より抜粋

・・・

「ガルダ、これの具合はいかほど悪い」
 良樹の、まったく血の気がない顔を見下ろしてリシドは問う。
 さきほども、テシムが良樹の頬をしきりにさすっていたが、確かに思わず触れて、本当に温かいのか、生きているのか、血が通っているのか確かめたくなる白さだった。
「十日ほどまえでしょうか。女官長が後宮の任をとかれた後、私を訪ねて医官の詰め所までこられました。ヨシキ様の体調がかなりお悪いようだと、心配して様子を知らせにきてくれたのです」
「なぜその時、私に報告しない」
 ガルダは、おやっと訝しげな顔をしたあと、そういうことですか、と首を小さく振った。
「もちろん報告はいたしましたよ。書面だけでなく、陛下に対面の申し入れもいたしましたが、何一つ音沙汰なく、それならばと直接後宮に出向きましたが、なんと門前払いとなりましてな」
「まて、それは、この後宮の侍従や女官が意図的にそなたの診察の妨害をしたといいたいのか」
 警備も担うカルニシャがガルダに厳しく問う。
「私にはわかりません。そこを精査されるのはそちらのお役目でございましょう。一ついえることは、ヨシキ様がなんの治療も受けられず放置された結果、これほどまでに病状が悪化してしまったということです」
 ガルダはそっと良樹のそばにより、掛け布の下から良樹の腕を引き出した。手首にそっと指をあて、脈をとる。
「陛下も触ってみてください。今のヨシキ様の脈はとても弱い。確かに身体が丈夫な方ではなかったが、この急激な弱りようは異常です」
 リシドは言葉なく、促されるままに良樹の手首に触れた。
 医師ではないので、弱いかどうかはわからないが、それでもとくんとくんと生のあかしの拍動が伝わってくることに、内心で安堵する。
「このような症状は、ガル茶を長期服用した際の反作用として表れます。ちょうどリラが、この後宮を辞した頃の症状とにておりますな」
「ガル茶については私も知っている。しかし、これほど短期間に悪化するとはきいていないが」
 リシドの問いかけに、ガルダも頷く。
「末期の症状が出始めれば、症状は加速度的に悪くなりますが、初期の症状からここまで急激な悪化はおかしい。これは私の憶測でございますが、ヨシキ様が毎日のまれるガル茶が、正しく用量と製法を守ってつくられていたのか、途中、何かが混入されていないか、調べる必要がございましょう」
 ガルダはガル茶の成分に変化があったとみているのだろう。ガル茶を淹れるには薬草の配分やお湯の温度など細かな計測が必要なため、基本的には医官が淹れる。それをアムや女官が本宮の一角にある医官の詰所から運んでくるのだ。ただ、良樹が寝所に軟禁されてからは、アムは出入りを許されていないため、女官か侍従がこれをしていたはずだ。
 作る過程か、運ばれる過程において問題があったとガルダは考えていた。
 いよいよ雲行きが怪しくなってきた話に、カルニシャが顔をしかめる。
 事態は、自分が思っていたよりも、もっと深刻に、驚くべき速さで悪化しているのではないか。
 カルニシャは様子見と思ってここしばらく見過ごしていたことを悔いた。
 リシドも同じ危惧をしているのだろう。ガルダの話を聞いている間、ずっと険しい表情をしていた。
「もし万が一、医官の不手際であれば、私の責任でございます。いかような罰もうけましょう。しかし、後宮の人間に関わることが原因ならば、その元を断っていただかねば、ヨシキ様の回復は見込めませぬ」
 先ほどのアムもそうだったが、ガルダも、かなり強い口調で王に意見していた。
 それほど、良樹の扱いに対して不満をかかえていたのだろう。
 リシドはそんな無礼ともとれる二人の態度も無言で受けとめ、ただ迅速な調査をするようにとだけカルニシャに命じた。
 カルニシャもこの件に関しては早急に動く必要性を感じていたのだろう。すぐさま頷くと、部下たちに指示をだすべく部屋を後にする。
 ガルダは、カルニシャが出て行った戸口に向けてちらりと視線を向けたあと、王に向き直り、声を潜めてもう一つ、ずっと気になっていることを聞いた。
「リシド様。ヨシキ様の今の病状は、ガル茶の急性的な発作に近いものとみております。ガル茶を見直し、別の薬を処方すれば改善されるでしょう。しかしながら、ヨシキ様がこの後宮に妾妃としてあり続ける限りは、いずれリラのように、体の機能が致命的に衰えてしまうことは避けられません。リシド様はこの方を、どのようにしたいとお考えなのでしょう」
 ガルダは希望も込めて、真摯にリシドに問う。
 良樹を少しでも大事に思っているならば、いずれは後宮からだしてほしいと。
 そしてできれば、そう遠くない未来、リラがまだ生きているうちであってほしい。
「ガルダ、お前が動くことはすなわちリラ殿の意向だな。それほどヨシキを返してほしいか」
 冷ややかに見つめてくるリシドの瞳を、ガルダは正面から見返した。
「私の願いです。王よ」
 死にゆくリラに、良樹を一目見せてやりたい。
「リラはおそらく、今年の春の大祭までもたぬでしょう。ヨシキ様が己が作ったガル茶で、己と同じ苦しみを背負って死ぬかもしれない未来が、リラには何よりもつらいのです。だから、ガル茶から解放され、健やかに笑う未来がヨシキ様にあることを、私は教えてやりたいのです」
 ガルダの言葉を黙って聞いていたリシドは、そのまま良樹の血の気のない寝顔に見入った。
「ヨシキは私のものだ」
 普段の王からは想像もつかないほど覇気のない声で、そう呟くと、ガルダに向かって下がるようにと手を振る。
 ガルダは更に言い募りたい気持ちを耐えて、静かに退室の礼をしてでていった。
 後に残ったのは、死んだように眠る良樹とリシドだけだ。
 夕刻に戸口にだけ灯をともしたのだろう。いつの間にか夜となり、完全に日が落ちた寝室は寝台に近づくほど暗いが、女官も侍従もこの騒ぎのせいか灯を増やしにやってきていない。
 寝台の脇にたつリシドの影が、良樹の顔にかかり、本当に人形のように表情がなく見える。
 リシドは先ほどと同じように、そっと良樹の腕をとり、手首を覆うように手のひらで握って脈を感じる。
 ひんやりと冷たく感じる手先を温めるように両手で握り込み、その手首にそっと口づけた。


・・・

posted by モリイロ at 14:50| BOOK | 更新情報をチェックする