2017年03月13日

身代り囚妃の祈り\

身代り囚妃の祈り9

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<あらすじ>
星の宮でのテシムとクムとの生活は、
良樹や良樹を囲む人々との間にも良い影響を与えていた。
一方で、良樹はテシムの呪いについての秘密を抱え続けて
生活することに、限界を感じはじめる。
そうしたなか、テシムの秘密は
ついにリシドの知るところとなり・・・。


表紙フルカラー/44P/2段組み/300円
異世界トリップ小説の9巻目です。
新王×少年
後宮/無理矢理/調教/子育て

まだまだ続いてますが、そろそろ終盤です。
目指せハッピーエンドで頑張ります。

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身代り囚妃の祈り9から抜粋


 気づかわしげなアムに、良樹は大丈夫と笑って、卓の前の椅子に座り込んだ。
 そのままガル茶に伸ばした手を、アムは思わず掴んで止めてしまう。
「アム?」
 そんなことをされたことがなかった良樹は戸惑って傍らに立つアムを見上げた。
「あ…、すいません。ヨシキ様。あの、ガル茶、飲まなきゃだめでしょうか」
「え?どうしたの、急に」
 思いつめたようなアムの表情を訝しんだ良樹は、アムの手を優しく引いて、向かいの椅子に座らせた。
「アム、ガル茶は後宮に居る限りは飲まなきゃいけない。そうだったよね。なんで今さらそんなこと聞くの」
「そうですよね。確かに後宮の妾妃は飲まなきゃいけないです。でも、そもそも、本当なら青宮の妾妃は飲まなくてもいいんですよ。ほら、王の子どもを産む立場だから。避妊とかしなくていいですし」
 本人としては理路整然と言っているつもりかもしれないが、良樹にはしどろもどろの言い訳に聞こえる。
「確かに青宮の妾妃には必要ないかもしれないけど、僕に必要ないとは、きっとだれもいってくれないよ。たとえば仮に、僕とアムの間に子どもができたら、僕そっくりの黒髪をした偽者の王族になってしまうかもしれない」
 ですよね、とアムはしょんぼりと肩を落とす。
「どうしたの、アム。僕の体のことを心配してくれているなら大丈夫だよ。少し寝込むこともあったけど、それこそいつものことでしょう」
 困ったような笑顔を向けられて、アムは良樹に気を遣わせてしまったことにますます落ち込んだ。
「すいません。でも、本当にガル茶はあまりよくないんです」
 良樹は元気のないアムの様子をリラの容体ゆえだと思った。
「リラさんのこと?そうだね。ガル茶は確かに毒なんだろうね」
 励ますようにアムの手を握ってくれる良樹に、アムは本心を聞きたくなる。
「リラ様が倒れられて、ヨシキ様は不安じゃないですか。このままガル茶を飲み続けること」
 眉を八の字に寄せて心配してくれるアムに、良樹はまた困ったような微笑を浮かべる。
「不安がないわけじゃないけど、どうしようもないことだしね…」
「今みたいに、周りに誰もいない時なら、飲まずに捨てたってわかりませんよ」
 小さく震える声で、アムは良樹の耳元で訴えた。
「アム、心配してくれてありがとう。でもね、秘密はもうこれ以上抱えきれないや。僕はそんなに器用でも、肝が太いわけでもないから、きっとすぐにばれてしまう。むしろそっちの方が不安になりそう」
 笑ってそう言って、良樹はアムから手を離し、卓に置いてあったガル茶を一気に飲み干した。
 ヨシキ様…、と声を漏らして、アムはその様子を見つめる。
「だからもう、隠し事は一つで十分」
 飲み干した器を盆の上に戻しながら、良樹が呟いた。
 視線の先にはテシムがいる。
「ちょっと、テシムの様子をね、あらためて見ていたんだよ」
「様子、ですか?」
「うん。お腹のね」
 アムははっと息をのむ。
 良樹はテシムの紋に直接ふれるような世話の多くを自らがかってでてくれており、王の相手をしていて手が離せないときなどだけ、アムや女官長が代わりを務めていた。
 アムはここ最近のテシムの紋をみていない。
 臍を中心に赤黒く禍々しさを放っていたあの紋は、いまどうなっているのか。
「何か変わりがありましたか」
「ううん。逆。あんまり変わってない。もうサリド王が亡くなって結構な日数が経つのに、まだはっきりとわかる程度には残ってるんだよね」
 ふう、と疲れが見える顔を覆うように手をかざし、椅子の背に体を預けた。
 そろそろ三人だけで腹の紋を隠しながら世話をやくのにも限界がきていることを、良樹は感じていた。
 テシムは意外と丈夫で、少し微熱をだしたことぐらいで病らしい病もかかってないことから誤魔化せてきたが、今後、典医にかかるようなことがあれば簡単にばれてしまう。
 それに、自分たちはともかく、女官長はこれ以上王に対して秘密をかかえるのは限界だろう。
「今のリシド様ならば、きっと話しても大丈夫だと思うんだけど…」
 神生王国への憎しみだけに塗りつぶされていた以前とは違い、王となって寛容さもみせるようになっている。テシム自身に対しても、暇をみては様子を見に来て、抱き上げる仕草も自然になった。あやしたり、話しかけたりもしてくれる。今のリシドならば、テシムがサリドの呪いを共有していた者だとわかっても、ひいてはアステ姫がその触媒だったとしても、怒りはするだろうが、傷つけたりはしないと思う、のだが。
「わからないなあ。以前の怖さも、あの方の本質なんだろうし」
 このままうまく紋が消えて、この話をうやむやに終わらせてしまいたい気持ちがなかったわけではないけれど、どちらにしても女官長が知っているのだ。なかったことにすることはできない話だ。
 覚悟をきめて、近いうちに話さなくてはいけないだろう。
 少なくとも黙っていたことへの怒りは相当なものだろうから、女官長やアムに飛び火しないようにしなければ。
 最悪の事態も考えて、良樹は重たいため息をついた。
「ヨシキ様…」
 心配げに呟くアムに、ごめん、不安になるようなこと愚痴っちゃったねと良樹は笑顔をみせた。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
 そういって、もたれていた背から身を起こす。
 と、その時、
「私に隠し事があるのか」
 不意に鋭く問いかけられた良樹は、がばりと戸口の方を向く。
 同じく飛び上がるほど驚いたアムも、寝室の入り口に慌てて目をやった。
 そこには、リシドが立っていた。



posted by モリイロ at 02:25| BOOK | 更新情報をチェックする